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ぬるま湯雑記帳

巻之三

女子寮騒動顛末 をんなのそのさわぎのあれこれ  


ふくすけ 巻之三 扨化白雪姫 さてもばけたりしらゆきひめ

 基本的に部屋の構成は二年生が二名、一年生が二名である。人呼んで「二・二部屋(にーにーべや)」。但し、二年生の人数は一年生より少ないので「一・三部屋(いちさんべや)」もできる。なぜ二年生が少ないかといえば、寮の環境に耐え兼ねて(?)一年間で退寮してゆく者も結構な数になるからである。もっとも、何ヶ月かで退寮してゆく人もいるし、二年間いなきゃならない訳でもないので、一年間という在寮期間は決して短くはない。
 私の部屋は二年生のSさんとYさん、一年生のMちゃんとの「二・二部屋」だった。これは二年生にとっても安心できることらしい。新しく一年生を迎える時に一人だと気が重いのだろう。このメンバーで後期の「お部屋替え」になるまで過ごす。この三人とはいい出会いをし、後々までいい関係でいられた。めでたい。

 私は国文科だったのだが、各部屋の構成員は同じ学科の人と一緒にならないようバラバラになっている。しかし数日後に控えた入学式では学科ごとに纏まらなくてはならないし、これからのこともあるので同じ学科の、出来れば同じクラスの人を見つけて顔見知りになっておく必要がある。そこでひとまず落ち着くと、一年生の『徘徊』が始まる。挨拶まわりだ。あるときは二年生に連れられ、ある時は噂を聞きつけ、夜な夜な心当たりの部屋を回りまくる。でもだいたい皆が同じことを考えているので、どの部屋にも一年生の姿はない。
 それでも下手な鉄砲も何とやらで、少しずつ友達の輪が広がってゆく。そのうち学科に関係なく隣近所の部屋へあいさつに行ったり、徐々に行動的にもなる。ノックは他の部屋を訪れるときは二回、自分たちの部屋に入るときは一回と区別される。

 ある日の夜、Mちゃんが徘徊の末獲得したお仲間の部屋についていった。そこは「一・三部屋」で、一年生が三人とも部屋にいた。何も知らずに行った部屋にはたまたま同じクラスのコがいたし、二年生は出かけている。そこで部屋にあがって話をしてゆくことにした。…その中に、思わず、ハッと目を引く美人がいる。Mちゃんもかなりの美人だがタイプが違う。「あー、お姫様みたいだー」と思った。私の中の白雪姫のイメージにぴったりくる。あぁ神様は不公平だ。

 自己紹介が終わった後は、なんだか凄い部屋だよねといった事から話を始めたように思う。コンセントも使えないし、なんといってもプライバシーがない。通常はなんとかなるにしても、本人達の意識のないところでの事が気に掛かる。
「寝ちゃった後、嫌だよね」
「いびきかいちゃったらどうしよう」
「歯ぎしり、たまにしちゃうんだけど」
「寝言とかもきかれちゃうんだよね」 
皆でわいわい言っていると、「でもさぁ」との声。白雪姫だ。

「でもさぁ、寝ッ屁やだよね、寝ッ屁

 ね・っ・ぺ。生まれて初めて耳にした衝撃と妙な語感、その言葉を発した人とのギャップという三重の攻撃に、私はハハ、と笑うだけだった。一瞬の沈黙。空気の凝固。虫も殺さぬような、トイレにも行ったこともないような顔(どんな顔だ)をして、貴女は確かにこう言った、寝ッ屁と…。他の三人もさらっと聞き流していたが、動揺の色は隠せない。それはその言葉を発した彼女に対する驚きの為か、実際にその「行為」を心配した為のものなのか、今となっては知る術もない。この後何を話したかさっぱり覚えていない。あの言葉だけが、私の脳内でひたすらリピートされるのみ。
 そして「白雪姫」は「気さくなJちゃん」へと変わった。(続く)


1996年8月1日発行 佐々木ジャーナル第十一号より(一部変更) 千曲川薫


すみませんねえ、こんな話で。でも、切実に気になることなんですよ、これ。ちなみに皆様の地域では「ねっぺ」ですか「ねべえ」ですか?お剛家ではこの事象に名前がついておりませんでした。 



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